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もてなしの心に徹する
 温泉民宿『漁火』/下 孫一さん

こんな民宿があったのか、とうれしくる。
利便性やアメニティーからは遠いかもしれない。
が、民宿らしいもてなしの心を大切にしてきたことが、客の大半がリピーターで、うち八割は県外からわざわざやって来る理由なのだと思う。
食膳に載る魚は、目の前の海に仕掛けた定置網から。米や野菜も、自ら丹精したものを出す。素材の直球勝負とでも言えようか。変に手を加える必要がないのだ。 そして、下さんは、漁業や農業を体験してみたいという客には、「どうぞ」と一緒に作業に誘ってくれる。家族同然の気安さである。
海を茜色に染める夕陽を、ぼーっと眺めるだけでもいい。囲炉裏で下さんや客と世間話に花を咲かせるのもいい。
 心洗われ、心安らぐ。
そんな一日を、下さんは何ほどのこともなく見事に演出してくれる。
お問い合わせ:温泉民宿「漁火」石川県輪島市小池町小鵜入(TEL:0768-22-2410)


和紙にこめる生の息吹

 能登仁行和紙/遠見 京美さん

紙漉きの枝は、義父の周作さんを手伝う中から吸収した。
周作さんは、画仙紙に飽き足らず、杉の皮やクマ笹などを漉きこんだ野性的な民芸紙に挑み、名を馳せた人である。
その伝統を継いだ遠見さんは、工房の周りに咲く草や花を紙に散らした。むやみに着色や脱色をせず、自然を和紙の中に表現したいと思った。
手に取ると、えも言われずあったかい。“野集紙”は、そんな紙である。 遠見さんは、楮やガンピのほかに、ミョウガやカヤを原料に使った紙も漉く。 この和紙は、遠見さんだけのもの。野集紙と共通するのは、植物がうちに秘めるエネルギーを引き出していることだ。
「子どもの頃、時を忘れた水遊びのつもりで」。
初心者には手を取って親切に教える遠見さんに、作家然とした気取りなどみじんもない。
お問い合わせ:能登仁行和紙 石川県輪島市三井町仁行(TEL:0768-26-1566)

にじむ自然体の生き方

 川城農園/川城 繁さん

肉厚のうまいシイタケは、太いしっかりとしたほだ木を揺りかごに、里山の木漏れ日と雨や霧を受けて育つ。
健康を養うための恵みの食だからこそ、川城さんはこつこつと仕事を続ける。 山に入ってコナラやシデを伐り、葉枯らしをした後、一本一本運んでほだ木をつくる。風止め用の黒いネットも張る。どれも重労働だ。 川城農園のシイタケは、決して偶然の産物ではない。だが、川城さんは、「『おいしかった』のひと言で満足なんや」と控えめだった。 収穫は十二月から四月末まで。通年、食べられるよう干しシイタケにし、初春にシイタケ菌を植え、手のすく夏にはラベンダー、秋はまた、ほだ木をつくる。
春の精が詰まった山菜の栽培にも力を入れている。 去年、伐った木のわきには新芽が吹き、山は自然の力で再生されるそうだ。自然とともに生きる豊かさを、川城さんから教えられた気がする。
お問い合わせ:川城農園 石川県珠洲市高野町24-29(TEL:0768-87-8856)

ときめく色との出会い

 鳳染家/本間 豊子さん

都会では味わえない贅沢とはこのことだろう。星降る夜空。あふれる緑。滋味豊かな食。そして、晴れれば畑仕事、雨の日は創作や読書で過ごす。
本間さんは、「夫婦の老後は理想の地で」と千葉から移り住んできた。ネクタイ作りや染織を学んだ経験を生かして、染めと手織りを本格的に始めた。 寂しさは感じない。こっちでできた友人や地元民とのつき合いが楽しいからだという。
草木染めは、同じ野草や樹皮、根を使っても、季節や天候で微妙に色合いが違う。思いもかけない美しい色に出会うこともある。そのときめきで、創作の意欲は尽きない。 そんな自然の不思議や面白さを多くの人に伝えたいと、本間さんは思う。だから、手間ひまがかかっても体験の希望者を受け入れる。 ちなみに肩書の鳳染家は、花のホウセンカと門前町のある「鳳至郡で染める家」を洒落たもの。遊び心を失わない青春の人だ。
お問い合わせ:鳳染屋 石川県門前町大生まんだら村ろ16(TEL:0768-42-2425)

旬の味をとことん追求

 能登そば『夢一輪館』/高市 範幸さん
挑戦をやめない男である。
役場職員時代、新たな特産品として村にブルーベリーを定着させ、やがて地域おこしの夢を一軒のそば屋に託して独立した。やや細切りのそばは、素朴で真っ正直な高市さんの人柄そのものだ。 いまは、人工栽培でないキノコ山を仲間たちとつくっている。
地元でもお目にかかれないマイタケやシメジ、クリタケ、ムキタケなど、バラエティー豊かなキノコが、夢一輪館の秋をにぎわす。 それらを食べるもよし、採るもよし。もちろん、春は山菜、夏はブルーベリー摘みができる。
それだけではない。能登のどこにどんなうまいものがあるか、旬の味を知り尽くしている。浅薄なグルメ情報誌とは全く次元が違うのだ。いやはや本当に能登は奥深い。味も人も、風土も。
お問い合わせ:能登そば「夢一輪館」・能登きのこの山 石川県柳田村当目28-1(TEL:0768-76-1552)